街路樹がつくりだす日陰が途切れると、七都は眩しそうに目を細めた。
「親父の単身赴任に母親がついていくことになってて、あの家には俺だけが残って高校に通うはずだった」
「それって」
これまで私に十五年間の暮らしがあったように、川崎家にも川崎家の暮らしがあったのに、私の存在が明らかになったことで、決まっていた予定が大きく変わってしまった。
「お前が来ることになって、急遽母親も残ることになったんだ」
「ごめん……」
「だからそうやってすぐ謝んなよ、面倒くせえ。べつに責めたくて話してるわけじゃない」
嫌そうに口を歪める彼を見て、ふと思う。こんなふうに負の感情を丸出しにする七都は、学校ではあまりお目にかかれない。
「たしかに一人暮らしに憧れはあったけど、俺はたぶん、あんなふうに毎日ちゃんと自分で飯を用意するなんて、できなかったと思う」
思いがけない言葉だった。美味しいも不味いも言わなかったけど、私がやっていたことを、彼はきちんと見ていてくれたのだ。
「母さんだって、いやいや残ったわけじゃないはずなんだ。ただ、女の憎しみは、女に向かうっていうか……」
そう言って、七都は目を伏せる。
「俺は親父のしたことなんて、今さらなんとも思わないけど……」
メモ書きの内容を思い出しているのか、彼はそれきり口をつぐんだ。
一般的に言えば、私と七都が異母兄妹であることは、つまり『父親』が私の母と不貞を働いたということになる。
理香子さんの怒りが私の母親に向かうのはもっともなことだ。でも、理香子さんを一時的にでも裏切った『父親』に、七都が負の感情を向けていないのは意外だった。それとも口にしないだけで、心の中では黒い感情が渦巻いているのだろうか。
「七都、くんは」
「いいよ、七都で」
ぶっきらぼうに言われ、私は言い直す。少しだけ、彼の口調に慣れてきていた。
学校で見せる爽やかな姿も、教室を出たあとの無愛想な彼も、どちらも偽りのない川崎七都なのだと、今ならわかる。



