「え、な、なんで」
「今晩の作戦立てるんだろ。ほら、早くしろ」
せかされて、私はわたわたと机の中のものをカバンに突っ込んだ。
目をぱちくりさせているマリに「じゃあ明日ね」と声をかけ、私は教室をあとにする。
廊下を歩いているときも、生徒玄関で靴を履き替えているときも、私たちは注目の的だった。しかし七都は注がれる視線をものともせず、セミの声が降り注ぐ午後の日差しの下に出る。
「あちぃ」
眉を歪める彼が、私の視線に気づいて「なに?」とつぶやいた。和解できたと思っても、彼が何を考えているのかは、やっぱりよくわからない。
「いいの? 学校で私に話しかけて。変な噂だってまだ消えてないのに」
一時期よりはだいぶ下火になったものの、私と七都が付き合っているという噂は完全には消えていない。今でもよそのクラスから私の顔を見に来る女子生徒がいるくらいだ。
といっても、私には穴顔にしか見えないから、「渡辺瑞穂ってどれ?」「その子だよ」「へえ……」というヒソヒソ声を耳にして、そうと気づくだけだけれど。
「ああ、あの噂は結構いい女避けになった」
本気か冗談か、七都は涼しい顔で言う。
「言いたい奴には言わせておけば。仲のいい連中には『いとこだ』って説明してあるし」
それからはっとしたように私を見る。
「お前も、なんか聞かれたらそれで通せよ。いとこなら親の都合で一時的に同居してるとか、適当に説明できるし」
本当のことを話さなくても、うまくごまかせばいい。彼のやり方に、なるほどと思った。
日陰を選んで歩きながら、広い空を見上げる。まさか、七都とこんなふうに並んで歩く日が来るとは思わなかった。
となりを進む彼に、自分と同じ血が半分流れている。ただ重いだけだった事実に、ほんの少し別の意味合いが生まれている気がした。
くすぐったいというか、心強いというか。七都がいてくれてよかったと思う気持ちが、胸の底にかすかに湧いている。
「本当は俺、一人暮らしするはずだったんだ」



