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木曜日の教室は、朝からそわついていた。終業式を明日に控えて生徒たちが浮き立っているのが見て取れる。穴顔でも、そういう雰囲気みたいなものは空気を通して伝わるらしい。
「私、行かないよ」
「ええ!?」
マリはさも当然というように唇を突き出した。
「そんな野暮なことできるわけないじゃない。先輩だってふたりきりだと思ってるに決まってるし」
「そ、そんなことは」
花火大会の話題は、教室のあちこちで咲いていた。毎年この時期に催される近所の花火大会は、平日に開催されるにもかかわらずそこそこ規模が大きい。この高校では花火大会で上がったテンションのまま翌日の終業式を迎え、夏休みに突入する、というのが毎年の恒例になっているらしい。
七都にも声をかけていたけれど、「協力はしてやってもいいけど、俺は行かない」とあっさり断られていた。
「先輩が迎えに来てくれるの?」
「ううん、一応駅で待ち合わせってことになってるけど……」
とたんに不安が押し寄せた。
遊馬と二人きりなんて、大丈夫だろうか。そもそも七都が協力してくれるとはいえ、理香子さんの目をかいくぐって花火大会になんて行けるのかな。
「大丈夫だって、そんな緊張しないで。いつもどおり。ただ花火見るだけじゃん」
マリが朗らかに笑って、私はつい見入る。彼女ととなりの席でよかったと、あらためて思った。穴顔ばかりの教室で、マリのくるくる変わる表情にどれだけ助けられたかわからない。
私は教室を見渡した。帰りのSHRが終わり、掃除当番が机を後ろに寄せ始めている。この並び順で座れるのも、明日で最後なのかもしれない。二学期になったら席替えを要望する声が上がりそうだし、そうなったらマリとはきっと離れてしまう。
それが少し寂しい。
「ねえマリちゃん、やっぱり一緒に花火」
「おい、帰るぞ」
すぐ傍で聞こえた声に振り返る。後ろのドアから顔を出したのは七都だった。



