* * *
「花火、行かないの?」
マリが大きな目をぱちくりさせ、私の顔を覗き込む。
「行かないよ」
かばんの中身を机に移しながら、私は答えた。
週明けの月曜日は朝から湿気がまとわりついて蒸し暑かった。幸い教室にはエアコンがついているけれど、設定温度が高いうえに自分たちでは温度調整ができず、下敷きやうちわで顔をあおぐ生徒が目に付く。
「行けばいいじゃん。あのサルの人を誘ってさ」
「な、なんで遊馬が出てくるの?」
「だって、気になってるんでしょう」
マリはつまらなそうに目を細めた。
「見てればわかるよ」
「な……なにを言って」
反論したいのに、言葉が見つからない。顔が火照っていることに気づいてうつむくと、マリが凛とした声で言った。
「瑞穂ちゃん、あの人に結構お世話になってるんじゃないの? この機会にお礼したほうがよくない?」
見透かすような言葉に喉が詰まった。
突然人の顔が見えなくなって世界から切り離されたように感じていたのに、最近の私は少しずつ前を見ている。七都と話してその気持ちを知ることができたのも、自分から話しかけることができたからだ。
この世界から飛ぶことはできなくても、足を踏み出したことで確実に何かは変わっている。誰のおかげかなんて、考えるまでもない。
「花火に誘うことが、お礼になるの?」
「なるなる! 女の子から花火に誘われて、嬉しくないわけないじゃない」
「そうかなぁ……」
七都の不機嫌そうな顔がよみがえった。女の子から告白されても嬉しそうな顔どころか迷惑そうな顔をしていた気がする。
「サルの人だって、瑞穂ちゃんのこと気に入ってると思うし」
「え、どうして?」



