華奢な肩が震えているのを見て、僕は思う。
モドキさんとの接点は主に委員会だけだったはずだ。一回だけとなりの席で、落ちた消しゴムを拾ってあげたことがあったかもしれない。でも、その程度だ。
「君が好きな先輩ってのは、本当に俺のこと?」
気がついたら、そう口にしていた。不思議そうに首をひねって、彼女は言う。
「そう、です。雪春先輩のことです」
そうだろうか、と考える。人の気持ちを疑ってかかるのは、僕の悪い癖かもしれない。それでも考えずにはいられなかった。それほどまでに似ていた。
「君は、俺じゃなくて、『彼女』のことが好きなんじゃないの? そんなふうに、必死で自分を似せようとするくらい」
モドキさんの顔が固まる。詳しいことはわからないけれど、モドキさんは化粧で自分の顔を『彼女』に近づけているらしかった。つくりものめいた肌にはあまり人間味が感じられない。
「そんな。わ、私は」
「そんなふうにあいつに似せなくても、君はじゅうぶん魅力的だと思うよ」
今思えば、モドキさんははじめからこんなに『彼女』に似ていたわけではなかった。きっと『彼女』に憧れて、少しずつ自分を寄せていったのだろう。
「ちがいます! 私は」
窓からの夕日を受けた彼女は、首まで真っ赤だ。
「本当に、雪春先輩のことが好きなんです」
そのせりふの通りに、僕のことが欲しいからこんなにも自分を『彼女』そっくりに作り替えてしまったというのだろうか。いや、と僕は思う。
モドキさんは『彼女』になりたいのだ。だから顔や髪型を真似て、身につけているものまで揃えて、『彼女』と付き合っている僕を欲しがっている。
「悪いけど、俺はアクセサリーじゃないんだ」
口調に、わずかに苛立ちがこもった。それを敏感に感じ取り、彼女は傷ついたような顔をする。
「わ、私は」
その声を背中に聞いて、僕は空き教室をあとにした。傷つきやすい少女の胸の内を考えてやる余裕なんて、若干十六歳の僕は持ち合わせていなかった。
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