昼休みや放課後は委員会に顔を出したり、先生に用事を言いつけられたりと忙しく、こうやって細切れの時間を休息にあてているくらいだ。彼女とは最近、たまに一緒に帰るくらいしか接点がない。
「けど、あんまり食べ物とかは受け取らないほうがいいんじゃないか」
「どうして?」
手をはたいてクッキーの粉を落としている彼女を、じっと見る。
「強すぎる好意が、悪意に変わることもあるんじゃないかと思ってさ」
「そうかなー。難しいこと言うね、ユキくんは」
頭上でチャイムが鳴り響き、僕はため息をついた。
僕の言葉は、ある意味では予言めいていた。あるいは口にしたことで言霊になったのかもしれない。
放課後、委員会での打ち合わせを終えて教室を出た僕は、一年の学級委員の女子に呼び止められた。
僕と同じように集まりにいつも参加していて、長いストレートヘアと切り揃えられた前髪が印象的だった子だ。僕は彼女のことを心の中で密かにモドキさんと呼んでいた。
そんなモドキさんから「お話があるんです」と言われて連れてこられたのは、一年生の空き教室だった。
夕日が差し込むその教室で、僕はあらためてモドキさんを観察した。見れば見るほど、『彼女』に似ている。
背中までの黒髪と前髪だけでなく、腕時計や腕に巻いている飾りのついたヘアゴムまでいっしょだし、顔立ちも似ているような気がする。僕が見つめていたせいか、彼女は恥ずかしそうに俯いて、もじもじとつま先をこすり合わせた。
「あ、ごめん」と謝ってから、僕は言う。「で、話って?」
モドキさんは顔を上げた。「あの」と口を開き、すぐに閉じる。聞こえた声に、僕はほっとしていた。凛と澄んだ『彼女』の声とは異なり、鼻にかかったような甘い音だった。
モドキさんは目を潤ませて僕を見る。
「先輩のことが、好きなんです」
意を決したように歩み寄り、僕の真正面に立つ。花みたいな香料の香りが鼻先をかすめた。
「先輩に彼女がいることは知ってるけど、どうしようもなく好きで」



