「いえない」
「え……」
短い沈黙のあと、彼は右手で顔を覆った。何かを堪えるような仕草にどきりとする。
「お前は今、すごくつらいんだろうけど、メモの内容は、俺にとっても……つらいことだから」
尻すぼみの声なのに、胸をえぐられるようだった。
「悪いけど……俺からは、何も言えない」
見えたのは、むき出しの痛みだった。
何にどう傷つけられたのかはわからないけれど、七都の背中にも私と同じ過去の傷跡が刻まれている。
この家は、私たちにはどうすることもできない過去の出来事に、覆い尽くされている。
七都の部屋をあとにして、ドアを開きっぱなしの自室に戻った。
風が通っても、この部屋はやっぱり蒸し暑い。エアコンで冷えた身体が徐々にあたためられていった。
小さくはためくカーテンを開いて、窓の外を見た。
家の裏側にあたるそこからは、となりの家の屋根が見える。建物に切り取られた空は、狭い。
身を乗り出して探したけれど、月も星も、どこにも見つけられなかった。



