今年、開花が早かった桜は、入学式の頃にはすでに散りかけていた。

 桜色でも緑色でもないどっちつかずの木の向こうで、青空だけがやたらと高い。

 広がる視界にはまだ慣れなかった。私にあてがわれたのは、廊下側から2列目の一番後ろの席だ。

 目の前には揃いのブレザーを着た背中がいくつも並んでいる。

 男子も女子も同じ、灰色にほんの一滴緑が混じったような曖昧な色のブレザーをまとって、頬杖をついたり、背もたれに寄りかかったり、姿勢をぴんと伸ばしたりして先生の話を聞いている。

 大きな背中もあれば、小さな背中もあり、丸かったり、細かったり、人間に許された体格の範囲でいろんな形状をしている。個性と呼べるものは、それだけだった。

 顔はみんな同じだった。

 凹凸のない肌に、目と口であるかのようにうつろな穴が三つあいている。

 まるで揃いの面をかぶってるみたいで、はじめてこのクラスに足を踏み込んだときは、私は恐怖のあまり教室から飛び出し、先生が来るまで自分の席に着くことができなかった。

 私がそのときおとなしく席に戻れたのは、担任が現れたことによる安堵感のためでも、担任からさっさと座りなさいと促されたせいでもない。

 ほかにどうすることもできなかったからだ。

「どうした、自分の席がわからないのか?」と私の背中を優しく叩いた先生もまた、みんなと同じ面をかぶっていた。