バタバタしながらも、約束の11:30に研究所に到着。


 この前と同じように所長が出迎えてくれて、応接室に通される。

 トオルさんはまだ来ていなかった。


 所長がコーヒーを持ってきた女性事務員に尋ねる。

「トオルはどうした?」

「外出先からまだ帰ってないんです。
 でも15分前に連絡がありましたから、もう間もなくだと思いますよ」
 
 意味ありげに微笑みながらコーヒーを置くと、事務員さんは軽く頭を下げて出て行った。



「すいません。
 前回といい、今回といい、段取りが悪くて」

 申し訳ない顔をした所長が、ため息をつく。


 俺はゆっくりと首を横に振った。

「いえ、お気になさらずに。
 トオルさんはずいぶんとお忙しい方のようですね」
 
「なんでもずっと好きだった女性を射止めることが出来たようで。
 その彼女が入院しているから、心配なのでしょう。
 ですが仕事は出来る男ですから、ご安心ください」


 そんな話をしていると、早足で近づいてくる足音が。



「申し訳ありません、遅くなりました!」


 勢いよく扉を開けて、大きな声と共に入ってきた一人の男性。

 それは、チカが“お兄ちゃん”と呼んでいた『山下 徹』だった。