それからはチカの口の動きを覚えるために、時間があれば彼女のそばにいる毎日。

 おかげで、言いたいことがメモを通さなくてもだいぶ分かるようになった。


 時々、読み取れないときはメモに書き出してもらうこともある。
 
 それでも、チカの負担はだいぶ減ったはずだ。



 チカが根気よく俺に付き合ってくれたってこともあるんだけど。


 俺を見上げる瞳。

 優しく笑う口元。

 俺に触れる小さな手。


 くるくる変わる表情や些細なしぐさが、言葉以上にチカの気持ちを伝えてくる。




 自分の想いを相手に届けるために言葉は重要だ。

 でも、言葉じゃなくても伝えられるんだってことに気付かされた。



 チカといるといろいろなことが見えてくる。


 それはきっと他の人からすれば当たり前のように見えていたことなんだろう。

 だけど、心を閉ざしていた俺には見えていなかった。



 チカと一緒にいれば俺は“本当の自分”として、生きていけるんだ。