それから遼河に案内され、私はこれから住む部屋の中をあちこち見ていた。

「なんか、想像していたのと大分違うね」

「何を想像してたんだよ…」

遼河は、近くにあった椅子に座る。

私はまだ興味津々にあちこち見ていた。

「ほんと、見ていて飽きないよな」

「だって、ここまで設備整ってるなんて、思ってなかったし」

普通の寮かと思っていたけど、ここの設備は私の予想をはるかに上回っていた。

部屋にはリビングがあって、トイレやお風呂も付いていて、大きなクローゼットもある。

しかも、ソファやテレビまである。

(これは、寮というより家だよね…)

でも、これじゃぁ何だか落ち着かないなぁ。

前の私の部屋はシンプルだった。

ベッドと机と椅子。

それしか置いてなかった。

なんかその方が落ち着けたんだ。

「ねぇ、私は何処の部屋を使えばいいの?」

「こっちだよ」

遼河に連れられ、『皐月』と書かれた名前札の前で止まる。

「私の名前?」

「部屋を分かりやすくするために作ったんだ。隣は俺の部屋だから、何かあったら呼んでよ」

「う、うん」

そっか、思い出してみれば二人きりなんだ。

いつもならここで悪いことを思い浮かべるんだけど、遼河だと何も浮かんでこない。

これは不思議だった。

「さて、これから特訓始めるぞ」

「え、またやるの?!」

咄嗟に身構える。

「お前さ、それ何の構え?」

「か、空手だけど!それとも、柔道の方がいい?!」

私は、柔道の構えに変える。

だけど、遼河は首を左右にふる。

「いや、とことん男に近づかれないようにしてきたんだなって思ったんだよ」

「そ、それはそうだよ!触れられるの嫌だったし」

でも、変な目で見られるのがもっと嫌だった。

「…、じゃぁ次の特訓は――」

遼河は、私に触れようと手を伸ばす。

「やっ……!」

それに私は驚いた。

嫌だったのではなく、反射的にそう行動を取ってしまったのだ。

「ごめん悪かった。なるべく触れないようにはする」

「……」

その言葉に、何故か私は傷ついていた。

(何で傷つくの?)

私よりも、遼河が傷ついたはずなのに。