あの頃の想いをもう一度

そして、悲劇が起きた。

喉が渇いて水を飲もうと廊下を歩いていたら、親父と母さんが話す声が聞こえた。

僕は、扉の隙間からその会話を聞いていた。

『あの子に、桜葉家を継がせようと思っている』

『でも、私は―――』

母さんは、僕が桜葉家を継ぐことを反対していたんだ。

『君はもう用済みだ。隼人だけ置いて出ていってくれないか?』

その言葉に、僕の心臓は大きく跳ねた。

母さんが出ていくと思ったからだ。

でも、母さんは僕が予想していたことと違う行動を取ったんだ。

『隼人を、継がせる気はありません!桜葉家は、父親と母親の二人から許可が得られれば、後継に選ばれます。だけど、どちらかが居なくなれば!』

母さんは、懐から包丁を取り出して、自分の胸に突き刺した。

『な、何をしているんだ!』

僕は、何が起こってるのか分からなくて、その場に座り込んだ。

母さんの周りは、血の海へと変わる。

『か、母さん!』

僕は、扉を開けて部屋の中へと駆け込む。

『隼人、何故ここに?!』

親父の言葉を無視して、僕は母さんに駆け寄る。

『母さん、しっかりして!何でこんな事を…!』

母さんは、ゆっくりと僕に手を伸ばす。

『あ…、貴方さえ居なければ…』

『え…』

『貴方さえ居なければ、私は……』

母さんは、そのまま息を引き取った。

あの時の光景は、今でも僕の中に刻まれている。

母さんの最後の言葉――。

『貴方さえ居なければ』

あれは、僕さえ居なければ、母さんは死なずに済んだと言う意味だと僕は思っている。

母さんは、僕を愛していなかったんだ。