結成して間もない素人バンドを紹介するために動いてくれる人達がいる。ありがとう。心の中で感謝した。

 ギターの空は私の右斜め後ろに、キーボードの愛大は左斜め後ろにスタンバイした。

「涼、思いっきり歌ってな。俺も思いを込めて弾くから」

「うん! 届けようね、宝来君に」

 それからすぐ会場は静かになり、たくさんの人の気配だけがプレジャーディレクションを包み込んだ。

 あらかじめテレビ局の人との打ち合わせで決まっていたボーカルの挨拶は当然ながら私がやらなくてはならない。緊張したけど、空と愛大、二人がそばで見守っていてくれるのを感じたので今までにないくらい度胸が湧いた。

「皆さん、今日はお忙しい中私達プレジャーディレクションのために時間を割いてくれて本当にありがとうございます」

 来てくれた人の顔を一人一人しっかり見るような気持ちで遠くの観客席を左右に流し見た。

「皆さんには毎日色んな悩みがあると思います。私もそうです。バンド活動を始める前まで、私は人からしてもらうことばかり考え自分からは与えようとしない、それでいて人の欠点ばかりを探しネガティブな優越感に浸っているような人間でした。でも、ギターの空と出会い、キーボードの愛大と話し、人の過ちを赦し与える側の人間になりたいと思うようになりました。前の私からは絶対考えられないことでした」

 お母さんが、暁が、夏原さんが、会場にいる全ての人が私の言葉に耳を傾けているのが分かる。