身分違いも甚だしい、任務も忘れて恋という衝動に溺れた、くだらない鬼の。
わたしは好きな人にその好きな人を頼まれたのだ。
胸がどうしようもなく傷んだ。
叫んでもいいのではないか、そんな気がしてきた。
「僕らは1年に一回合う約束をした。
それだけならと、母上様が許してくださったのだ。
これからは織姫が僕に飽きるまで、諦めるまで、1年に一度でいいから会ってくれないか?」
「……ええ」
精一杯、押し殺したうなずき。
わたしは頼りになって癒しになる、最期に自分を看取ったのが私でよかったと思って欲しくって。
最後の最後まで、未だ慣れない笑顔でいようと思った。
「かしこまりました。そのお役目、あなた様に変わって果たしたいと思います」
「ありがとう……それでこそ、里だ」
「一一お願いがございます」
「なんだ?」
「わたしに、名前を付けてくださいませ」
目を見開いた彼は、そっとわたしの髪を撫ぜた。
鬼には名前が無い。
だって親もいないもの。
里というなまえは、この間死んだ童女から取ったと大国主が言っていた。



