課長の瞳で凍死します ~旅支度編~

 あ、あったっ、と鞄の底から慌てて取り出す。

 雅喜だった。
 もう駅に着いているようだ。

 バスの中からは、この莫迦、と思いながらも、かけられなかったからだろう。

『沢田。
 急いでタクシーで来い。

 バス停から動くな。
 そこに呼んでおいたから』

 さすが課長っ、と涙が出そうになる。

 そして、自分の間抜けさに腹が立った。

 運転手さんか、課長に一言言ってから、走り出せばよかったのに。

 でも、あのときは、あの子しか目に入ってなかったからな、と思い出す。

 あの子……誰かに似てたな。

 そんなことを思っているうちに、タクシーが来た。

 ちょうど近くを走っていた、と愛想のいい運転手さんが笑って言う。

 真湖の事情を聞くと、
「ええっ?
 新婚旅行なのっ?

 わかった。
 頑張って、間に合わせるよっ」
と言い様、突然、車は急転回し、近道らしき狭い道をぶっ飛ばし始めた。