それがところ狭しと並んでいた。
それまで絵はまったくといっていいほど興味がなかったし、美術も得意ではなかった。
けれど、どこか温かさを感じる俊さんの絵は、知識を抜きにして素直に『いい』と思えるものだった。
その日を境に学校が終わればここを訪れ、なにを話すわけでもなく俊さんの描く絵を見て、俊さんが淹れてくれる美味しい紅茶を飲むようになったのだ。
アトリエの外に出てみれば、本格的に雪が降り始めていた。
「やっぱりここだったかー」
雪と同じく真っ白い息を吐きながらやってきたのは、私の親友である間中香織(まなか かおり)だった。
今日は長いストレートの髪の毛を左耳のうしろあたりで緩くまとめ、その上から赤いマフラーを巻いていた。
猫のように丸い大きな瞳と小ぶりの鼻、小さいけれどぷっくりとした唇を持つ彼女は、とてもチャーミングだ。
高校のクラスでは委員長を務めるくらい優等生で、とても活発な女の子。
将来は心理学者になりたいというのが、彼女の夢だ。
私とちがって、両親とも仲が良い。
まぁ、彼女くらい勉強も運動もできて性格も良ければ、両親だって文句のひとつも出てこないわけだ。
私が彼女と同じところがあるとすれば、長い髪の毛くらい。
取り立てて説明するところのないごく平凡な顔立ちは、メイクをしなければのっぺらぼうのようになってしまう。



