桜の花びら、舞い降りた


「亜子が、若い男がひとりで住んでいる家に入っていくのを見たって。それも怪しい風貌の男だったって」


――なにそれ。
お母さんはいやしい言葉でも口にするかのように言った。


「そんなの、お母さんに関係ないでしょ!」


キッと睨みつける。
一体だれにそんなことを聞いたのか知らないけど、変なところじゃないし、俊さんは怪しい男でもない。
あまりにもひどいことを言われてカチンときてしまった。


「関係ないってことないでしょう?」

「お母さんも仕事だって言って、本当は男の人と会ってるんでしょ?」


お母さんの顔が一瞬で曇った。
きっと私の言ったことが真実だからに違いない。


「違うわよ。仕事なの。本当よ」


そんなこと信じられない。


「嘘ばっかり! 最低!」


こんな家にいたくなんかない。
くるりと方向転換し、入ってきたばかりの玄関へ向かう。