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「ちょっと亜子、こんな時間までいったいどこに行ってたの!?」
自宅の玄関を開けるなり、お母さんがすごい剣幕で出てきた。
鬼の形相とはこのことだ。
「どこだっていいじゃない」
お母さんの目も見ず冷たく言い返した。
自分だって、毎晩遅く帰ってくるくせに。
正月明け早々、お客さんへのあいさつ回りなんて本当は嘘なんじゃないか。
男の人と会ってるんじゃないか。
嫌悪感を込めてお母さんの横を通り過ぎると、フワッと甘い香りが漂った。
香水だ。
これは、絶対に仕事なんかじゃない。
そんな甘い香りが必要な相手と会っていたに違いない。
「亜子、ちょっと待ちなさい」
その声も無視して、二階にある自分の部屋へ向かおうと階段に足を掛ける。
「変なところに出入りしてるって聞いたわよ」
お母さんのひと言が私の足をそこで止めた。
変なところって、なに?
前を向いたまま、耳だけお母さんのほうへ傾ける。



