名前を憶えていることはさておき、やっぱり頭を打って、記憶がどうかしてしまっているのかもしれない。
彼は私の返答に対して、眉間にしわを寄せると考え込んでしまった。
「今日は何月何日?」
変なことを聞くものだ。
とはいっても、そういう私もたまに日付や曜日を忘れることはある。
「一月九日ですけど……」
私の答えを聞いて、彼の顔がみるみるうちに青ざめていく。
あれ? 違った? 八日だっけ?
自分の記憶も不安になって、アトリエの日めくりカレンダーを振り仰ぐ。
そこは確かに、一月九日となっていた。
「そんな……。昭和四十年の?」
「え!? 昭和!?」
私は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
だって、昭和だなんて。
この人、絶対におかしい。
「平成二十九年の一月九日です」
冷静に切り返した。



