桜の花びら、舞い降りた


圭吾さんと私も画面を覗き込む。


「アルゼンチンで起きた事例だけど、車の走行中に突然濃い霧に包まれて、気がついたときにはメキシコにいたらしい」

「アルゼンチンで消えてメキシコに?」


数メートルの移動なんてものじゃない。
大陸も越えてる。


「ほかにも似たようなやつがあるよ」


俊さんがパソコンの画面を下のほうへスクロールしていく。


「イギリスでは、クローゼットを開いたら黒い霧が出てきて、七歳の女の子が母親の目の前でそこに引きずり込まれるようにして飲み込まれた」

「で、どこに行っちゃったの?」

「次の日にカナダで見つかったらしい」


圭吾さんのように何十年も未来に来てしまったという事例は、あの飛行機の話以外には出てこない。
けれど、ほんの一瞬のうちに何千キロもの距離を移動しまった人たちの話は、そのどれも霧がカギになっているようだ。

私が夢で見た霧。
圭吾さんと飛び降りた橋で包まれた霧も、今の話に出てきた霧も、どれも時空を越えるときに現れたもの。
ということは、やっぱり霧が圭吾さんを過去へ戻す鍵ってことになるのかもしれない。