「霧か……。ちょっと待って。ほかの事例も見てみよう」
ようやく正気に戻ったのか、俊さんはアトリエの片隅に忘れ去られたように置かれた棚へと向かった。
たくさん埃が被っていそうな布を取ると、そこからはなんとノートパソコンが出てきた。
そんなものがこのアトリエにあることを初めて知って、驚かずにはいられない。
スマホも持とうとしない俊さんだけに、ネットの世界とは隔絶した生活を送っていると思っていたのだ。
「パソコンなんてあったの?」
「あっちゃ悪いか」
俊さんがフンと鼻を鳴らす。
ソファに座っていた圭吾さんと私も、俊さんの両隣に立った。
立った状態のままパソコンを立ち上げ、俊さんが画面に見入る。
マウスをクリックする規則的な音が、圭吾さんとの時間のタイムリミットが近づくタイマー音に聞こえる。
リンク先へ飛ぶごとに圭吾さんと離れる条件が揃っていくようで怖かった。
「これも霧だな……」
画面を凝視したまま、俊さんが呟いた。
「え? なにが?」



