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アトリエに着くと、俊さんは新たな絵を描いているのか、イーゼルに向かっていた。
空に幾重ものラインが引かれている。
虹だろうか。
今回の絵もまた、パステル調の優しい雰囲気だ。
この前の個展はなかなか盛況だったらしく、新たなお客さんもついたことで俊さんの機嫌はすこぶるよかった。
「俊さん、圭吾さんが過去に戻るために必要な条件がわかったかもしれない」
コートも脱がずに話し始めると、俊さんは眉根を寄せて気難しそうな顔を浮かべた。
絵筆とパレットを置いて、私たちのほうへ向き直る。
「どういうことだ」
俊さんは椅子を引っ張って来て座ると、圭吾さんと私にはソファへ座るよう促した。
神社での出来事。
私が見た夢。
全てを聞き終えた俊さんは、「そんなことがあるのかよ……」と言ったきり口をつぐんでしまった。
足を組んで眉間に深く皺を寄せる。
私が美由紀さんに似ているとだけしか聞いていなかった俊さんにとっては、突然沸いて出てきた話だっただろう。
私が、その美由紀さんの生まれ変わりかもしれないなんて、タイムスリップに次ぐ非現実的な話だ。
当の本人の私だって、まだ受け止めきれていない。



