「私が夢で見たのは、すぐ近くにいる圭吾さんの顔さえ霞むほどの濃い霧だったの」
「濃い……霧?」
「そう」
圭吾さんは、なにかを思い出そうとするかのように目を閉じた。
チラチラと舞い始める雪。
まだ春は遠い。
それ以上に遠いのは、圭吾さんがいるべき場所だ。
圭吾さんが静かに瞼を開ける。
「そういえば……普通じゃ考えられないような霧だったかもしれない」
やっぱりそうだ。
「ほかには?」
「どうだろう……。なかったと思うけど……」
圭吾さんが不安そうに呟いた。
私は、欄干に置かれた圭吾さんの手をそっと握った。
私以上に冷えた手だった。
閉じ込められた観覧車の中で圭吾さんがしてくれたように、不安が少しでも解消されることを祈った。
もしも、私が圭吾さんの立場だったら?
大切な人を残して、訳のわからない未来に来てしまったら?
きっと、圭吾さん以上に取り乱していただろう。
「大丈夫。絶対に帰れるよ」
圭吾さんの手を強く握って励ました。
濃い霧。
それが圭吾さんを過去へ戻す鍵なのかもしれない。
過去へのわずかなアクセスキーを見つけたような気がしていた。



