「あら、亜子、具合でも悪いの?」


私の顔を見て察知したのか、カバンを足元に置いて私に近づく。


「ううん、大丈夫」

「大丈夫って顔じゃないけど」


どうして夢の中で、私は美由紀さんだったんだろう。
圭吾さんは確かに私を“美由紀”と呼んでいた。
でもきっと、昨日、圭吾さんの記憶にある神社にふたりで行ったせい。
圭吾さんの気持ちとシンクロしただけ。

……そうだよね?

だけど、もしもあの夢が実際に圭吾さんと美由紀さんの身に起きたことだとしたら……。
あの夢の中に、圭吾さんが過去に戻れるヒントがあるとしたら……。

胸が締めつけられるように苦しい。
そのヒントを探りたい気持ちと、探りたくない気持ちがせめぎ合う。


「亜子?」


お母さんの手が額に当てられた。


「……ちょっと熱いわね。今日は学校は休んだほうがいいわ」

「ううん、これくらい大丈夫」


たぶん、雪の中を歩きすぎたせいだから。
別になんてことはない。


「ダメよ。お母さんもやることだけやったら帰って来るようにするから」

「平気だって」


そのときだった。
強烈な眩暈が私を襲う。
その場に立っていられなくなってうずくまった。


「ちょっと亜子?」


そして、お母さんの手が肩に触れた次の瞬間、私はそのまま意識が遠のいた。