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「美由紀、行こう」
……圭吾さん?
彼の手が伸びてきて、私の腕をつかんだ。
桜の花びら舞い散る中、圭吾さんに手を引かれて必死に走る。
白いワンピースが風に吹かれて、足に絡みついた。
――あっ、帽子が飛ばされちゃった。
ねえ、圭吾さん。
私たちは、なにから逃げてるの?
「美由紀、大丈夫か?」
私、美由紀さんじゃないよ。
どこに行くの?
「もう限界。……これ以上走れない」
酸素を求めて胸が悲鳴を上げる。
私はそこで足を止めた。
圭吾さんに手を引かれながら辿り着いたのは、あの橋だった。
ここだけ、すごい霧だ。
もくもくとせり出した積乱雲の中にでも迷い込んでしまったよう。
これほど近くにいる圭吾さんの顔さえ霞むほどだ。
圭吾さんは橋の欄干に足を掛けた。
私も圭吾さんに続いて欄干にのぼる。
「美由紀、これでずっと一緒だ」
私たちは手を取り合ったまま川へ身を投げた。
濃い霧に包まれ、次第に川面が近づく。
圭吾さん――。
――……
……――



