「そう言いたいのはこっちのほうですけど……」
その男性は、よく見ると黒の礼服に身を包んでいた。
見たことのないような四角張った帽子が、そばに転がっている。
どこかの結婚式の帰りだろうか。
若そうに見えるけど実は結構歳がいっていて、披露宴で酔っ払って訳のわからないことを口走ってるだけだろうか。
彼の肩に、雪がハラハラと舞い落ちては消えていく。
さっきあったはずの花びらは、どこかへ飛ばされてしまったようだった。
「亜子、行こうよ。なんかヤバイ感じだし……」
いつの間にかそばに来ていた香織が、私のコートをツンツン引っ張る。
「うん……」
そうは答えたものの、本当に放って行ってしまっていいものか悩んだ。
体調が悪いわけじゃないことはよかったとしても、どこか様子のおかしい人をこのまま残して大丈夫か。
「いったいどうなってるんだよ。……ここはどこなんだ?」
その男性はあたりを見回して困り果てていた。



