「どうなの?」
「そうだったらおかしい?」
――全然。
即座に首を横に振った。
その逆だからだ。
子供の傲慢だと俊さんには笑われたけれど、お父さんとお母さんには永遠に仲良しでいてもらいたいから。
なにを夢見心地なことを言ってるんだと蔑まれたって、それが私の願いだから。
「お父さんね、亡くなるちょっと前にお母さんにこんなことを言ったの。『俺が死んだら、いい男を見つけて絶対に再婚しろ』って」
「え? お父さんがそんなことを?」
お母さんは目だけで微笑みながらうなずいた。
それは意外なことだった。
お父さんは、お母さんが本当に大好きだったのだ。
娘の私を差し置いてまで。
ケーキを買ってくれば私よりもまずお母さんに選ばせたし、車の助手席はお母さんの特等席。
誕生日プレゼントだって、気合の入り方は歴然としていた。
結婚して二十年近く経っても、娘の前で平気で「愛してる」とお母さんのほっぺにキスをするような夫婦だった。
私はそのことに口では「いい加減にしてよ」と不満を漏らしながらも、心の中ではふたりが仲良し夫婦なことが嬉しかった。



