桜の花びら、舞い降りた


その男性は、私の顔を驚愕の表情でまじまじと見つめていた。

キリッとした眉が意思の強そうな印象を受けるものの、優しそうな目元がそれを中和している。
細面で均整のとれた顔立ちだった。

なぜか懐かしく感じるのは、以前どこかで会ったことでもあるのか。
ただ、思い出そうとしても、白い霧に閉ざされてしまったようにぼんやりとするばかり。

たぶん、私と年齢は同じくらいだろう。
お互いに見つめ合ったままでいると、男の人の肩に花びらのようなものが付いていた。
……桜? のわけないよね。
まだそんな季節じゃない。


「美由紀! なんとか言ってくれ!」


私がなにも反応しないからか、彼が私の腕を強く揺する。
その弾みで、肩から提げていたバッグがずり落ちた。


「……あの、私……“みゆき”っていう名前じゃありません……」


警戒しながら言い返す。


「なに言ってるんだよ。どこかに頭でもぶつけたのか?」


訝しげな表情で返された。
いくら勉強ができなくても、ぶつけた記憶はまったくない。