「だーかーら、亜子ちゃんのお父さんのことを忘れられないんだってさ」
……嘘。
それじゃ、毎晩帰りが遅いのは?
お正月明け早々、家を空けていたのは?
……全部、本当に仕事だったの?
彼氏ができて、浮かれて遊び歩いていたんじゃないの?
「亡くなってまだ二年くらいだものねぇ。まぁ、私だったら、さっさと忘れちゃうだろうけどさ」
おばさんは、笑いながらパチンと私の肩を叩き、自分の家へと戻って行った。
なんとはなしにその背中を見つめてぼんやりしていると、バッグの中でスマホが着信音を響かせた。
ディスプレイには“俊さん”の文字。
俊さんから電話なんて珍しい。
どうしたんだろうかと思いながらタッチした。
『今どこにいるんだ』
「どこって、家だけど」
『圭吾くんも一緒か?』
「一緒のわけないじゃない。私んちなのに。個展は終わったの?」
私の質問に俊さんは答えない。
電話の向こうの空気が変わる気配がした。



