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「亜子ちゃん、亜子ちゃん」
玄関へ入ろうとしていたそのときだった。
隣の家のおばさんが私を呼びとめた。
世間話が大好きな、人の好いおばさんだ。
「こんばんは」
開けようとドアノブに伸ばした手を下ろし、頭を下げる。
「この前ね、亜子ちゃんのお母さんにいい男性(ひと)を紹介しようとしたんだよ。そしたら、亜子ちゃんのお母さん、なんて言ったと思う?」
おばさんは、やけにニコニコしながら私に尋ねた。
なんて言ったって……。
『お付き合いしている人がいます』とでも言ったんじゃないか。
おばさんの“ニコニコ”から察するに、それをネタにちょっと私をからかおうというつもりなのかもしれない。
そう思ったものの、首を横に振ってわからないというアピールをしてみせた。
すると、おばさんはさらに嬉しそうに顔を綻ばせた。
「亡くなった御主人のことが今でも好きなんだってよ」
「……え?」



