「私、ちょっと行ってくる」
「えっ、亜子!?」
戸惑う香織をその場に残し、男の人の元へと急いだ。
その人は私が近づいたことにも気づかない様子で、ボーっと川を眺めていた。
「あの、どこか具合でも悪いんですか?」
ためらいがちに声を掛けると、その人はゆっくりと振り仰いだ。
生気を失ったように見える目に、不意に力が込められる。
カッと見開かれた。
「……み……ゆき?」
その人が確認するように言葉を発する。
「美由紀!? 俺たち、生きているのか!?」
突然立ち上がって、その人が私の両腕を掴む。
そんな力があったのかと思うほど、強い力だった。
こっちが怯むほどの必死の形相だ。
「えっ、あの……」
いったい何事?
私は“みゆき”ではないし、この人のことも知らない。



