「春風閣だよ」
私が言ったホテルの名前を圭吾さんがポツリと繰り返す。
「知ってる場所なの?」
圭吾さんは小さくうなずいた。
「美由紀が婚約披露パーティーを開く予定だったホテルと同じ名前なんだ」
え……ここでパーティーを……?
心が妙にざわつく。
ここから圭吾さんは美由紀さんの手を取って……。
「おう、来てくれたのか」
現れた俊さんが私たちを見つけて手を上げる。
「どうしたんだ。入らないのか?」
ボーっとしている私たちを不審そうに見つめた。
雪の積もった三段ばかりの階段を上がり、俊さんの前に立つ。
「ね、俊さん、このホテルって何年前からあるの?」
唐突な質問に、俊さんは「は?」と眉をしかめた。