「オレ、たいしたことしてませんから。夏目先生……まで、やめてください」
遠慮がちに答えた常磐君は不意に夏目先生を静かに見上げる。
「アナタの優しいところは今も変わらないのね、常磐君。いい男になったわね?」
クスッと笑った夏目先生に常磐君が反応する。
向けられた夏目先生の妖艶(ようえん)な視線に、柔らかい瞳が一瞬だけ“男の子”の瞳に変わったような気がした。
真っ直ぐに、でも、どこか凛々しくて切ない。
「優しくなんかない。無我夢中で気づいたら和藤さんのとこに走ってた。それだけだ……」
ベッドの横にある丸椅子に座りながら夏目先生から目を背ける。
常磐君、どうしたんだろう……?
「……そう。ごめんね、常磐君」
独り言みたいに声を落とした夏目先生の表情は、明け方の月のように消えてしまいそうだった。



