「だから、見逃して?」
どう見ても言葉通りの状況にショックを隠しきれないと言った声が微かに聞こえて。
七瀬先輩に隠されたような形になったわたしからは見えないけど、最後には悲鳴のような声をあげてパタパタと去って行く足音だけが耳に届いた。
わ、わたし……助かったんですか?
「なんつー顔してんだよ?」
きっとマヌケな顔をしてると思う……。
黙れとか言っておきながらわめくわたしをどんな形であれ、助けてくれたのかもしれない。
自惚れでも、そう思ってしまったら。
「八重」
トク、トク……と名前を知らない小さな感情が胸の奥でぼんやりと揺れ動いた。
名前で呼ばれたことを嫌じゃないと初めて思うわたしがいる。
そんなありえない思考になってしまってるのは、きっと、七瀬先輩の腕がわたしを取り囲んだままだから。



