ちなみにこの通りご丁寧に眠り姫呼ばわりしているけれど、わたしはこの高校に通う二年の和藤 八重(わとう やえ)。
学級委員を務める身としては二人のやりとりを聞いてしまったわけで、コレを放置するのも風紀が乱れるのはもちろん。
見過ごすのも如何なものかと葛藤する。
つまり……。
わたしはベッドの周りを囲んでいる白いカーテン一枚を隔てて、聞きたいわけでもない二人の怪しげな会話を聞いてることになる。
「ずっと我慢してんだよ?オレ」
アナタは、獣ですか……?
吐息混じりの声で囁く七瀬先輩は、この学校の王子的存在に当たるだろう。
ダークブラウンに染めた艶を放つ長めの髪。
歩くとふわり風を纏い鼻を撫でる、シトラスの香りが舞い躍る。
一度聞いたら鼓膜を揺るがす甘い声。
目の縁を取り囲む長くて濃い睫毛に、憂(うれ)いの影を落とす瞳……。
どこか切なそうな、その瞳。
極めつけは、大胆不敵な極上の笑み。
“美しい悪魔”ーーーと、称される三年の七瀬 昴(ななせ すばる)は、自分の全てで女の子を虜にしてしまう術を持っている。
だけどこの七瀬先輩が、わたしは大嫌いだ。
その理由は……。



