「八重が?え……八重?」


と、杏奈が心配そうにアタフタする横で止まない非難の声から逃げるように俯くしかなくて。


どこまで勝手なんですか、アナタは……。


怒りと焦りが沸き上がる衝動を抑えて窓際に硬直して座るわたしは顔を上げた。



「えっ……」



そんなちっぽけな声しか出なかった。


だって、なんで七瀬先輩がわたしの目の前にいるんですか……?


シトラスの香りがわたしの鼻を誘うように撫でて、じんわりと細胞までくすぐられるようで。



「昨日のことだけど」


「ちょっと……!人のクラスに何勝手に入って……」



言葉を遮るようにごく自然に七瀬先輩はわたしを窓際へと追い詰めて、絶句するわたしの頭の横に手をついて逃げ口を塞いだ。


胸が悲鳴をあげる、色んな意味で……。



「悪いけど、一歩も引く気ねぇから」



ーーー見上げれば、大胆不敵な笑みが降りかかる。