「あのマンションは七瀬昴の家だった。オレ達はそこに入ったんだ」 昨日の雨の匂いが鼻をかすめるようで、ゆらゆら揺れる窓際のカーテンへとわたしは目を伏せる。 「夏目先生はあからさまに動揺してて、七瀬昴はベランダで遠くを見てそ知らぬ顔だ。だから……“夏目先生、こんなヤツのために泣くことなんかないよ”ってオレは言ったんだよ」 いつも夏目先生は泣いていたんだって常磐君は言っていた。 きっと苦しんでいるに違いない夏目先生の姿は、わたしにも容易に想像がつく。