逃げるようにドアに手をかけて開ければ、七瀬先輩の掠れた声が背中に響いた。



「最後まで、名前で呼んでくれねぇんだな」


「……っ」



胸が千切れそうになるのを振り切るように外へと踏み出した。


バタンッと閉まったドアの前からわたしは走り去って、マンションのエントランスを出た。



夢なんて見るもんじゃないし、淡い期待もしちゃいけない。



七瀬先輩がわたしを見ていたなんてそんなのは夢物語だ。



初めて一緒に帰った帰り道の続きを、一人で歩き出す。


雨はまだ、止みそうにない……。