夏の緑の匂いをのせた風に吹かれて杏奈のふわふわの髪が柔らかく靡いて、振り返らないその華奢な背中にもう一度声をかける。



「こ、ここから見てるだけでいいの……?」


「いいの。嫌われるくらいなら、遠い方がずっとマシだから」



わたしなんかに言われたら気に触るかもしれないと思ったけど、言わずにはいられなかった。



「……嫌われるって。どうして?杏奈……前も、言ってたけど、恋は実らないって。最初から決まってるって、なんでそんなこと」



ようやく振り向いた杏奈の作り笑顔が今にも崩れてしまいそうだ。


窓際にピタリと背中をくっつけると小さな声で話し始めた。