平常心を保つのが酷く困難だった。


わたし、本当にどうしちゃったんだろう……。



「あの、どうして七瀬先輩は常磐君のこと、知ってるんですか……?」


「常磐?別に。お前は知らなくていいことだ」


「知らなくていいって。でも……っ、何か、あったんじゃ……」



だってそうとしか思えない会話だったから。


それに、いつだって冷静沈着なハズの彼が髪の先まで怒ったみたいで。


あんな常磐君をきっと初めて見たと思う。


沈黙が宙から降り始めたその時、カーテンの向こうから夏目先生の声がした。



「……昴?」



ーーー“七瀬君”ではなく名前でそう呼んだ。


芯から驚いたわたしはベッドに手をついた体勢の七瀬先輩から大袈裟なほど距離を広げた。



「お願いだから、あんまり苦しめないで……」


「……っ」



雨でも降りそうな弱々しい声音が反響して。



わたしは、本当に何をやってるんだろう……。



女の子を虜にしてしまう人気者の七瀬先輩には、素敵な彼女……夏目先生という人がいて、二人は特別な関係だと知っておきながら、わたしは。



ハッと我に返ったわたしは七瀬先輩から真っ白なタオルケットへと視線を落とした。