店の中に不穏な空気が流れ始めたその時、突如店の電話が鳴り響いた。

姉貴が少し苛立った様子でとる。




「もしもし。…え?あ、はぁ、どうも…。

カンナ?

来てませんけど?」




カンナだって?




どうやらカンナの事務所の人間からみたいだった。

最初は普通に応対していたものの、姉貴の口調はだんだんと荒くなっていった。




「そりゃこの前お忍びで来てましたけど、ちゃんとこちらも諭して帰しましたけど?―――あーはいはい、カンナはそちらの看板タレントですもんね、もし見かけたらちゃんと言い聞かせますよ。
というか、そちらこそカンナにハードワークさせ過ぎなんじゃないですかぁ?ちゃんとメンタルも見てあげてくださいよ。いいですか?カンナはああ見えても結構繊細で…」




美南がつぶやいた。




「カンナ、また逃亡したのかしら」


「みたいだなー。ほんと相変わらずなヤツ。どーうしてうちの店の女はみんなお転婆なんだか。
とは言っても日菜ちゃんは別だけれど―――って」




拓弥は眉毛を器用にゆがめさせた。




「日菜ちゃん、カンナと一緒にいるんじゃないか?」




俺たちは顔を見合わせた。




「その可能性は大いにあり得るな。
カンナちゃん、今日のイベントに出たいって言ってたんだろう?
きっと、俺たちが気づかないうちに来てたんだ。それでトラブルが起きて、日菜ちゃんが巻き込まれて…」




暁兄の見解を、誰も否定しなかった。

むしろ、それしかないと思った。