それでもお母さんは行かせたくなさそうだったけれど、

『ただでさえ行事やクラスの仕事に不参加なのに、班発表にすら参加しなかったら、クラスの中で立場がなくなる』

 と半泣きで頼み込むあたしを見て、夕方四時までにはなにがあっても帰宅するという絶対条件を何度もくり返し言い聞かせて、送り出してくれた。

 市内でも指折りの大きな規模で開かれる桜祭り会場に到着した午後二時には、野ざらしの駐車場はすでに車で満杯。

 駐輪場にズラーッと並んでいる自転車を見るだけでも、中の盛況ぶりが容易に想像できる。

 あたしと坂井君は国道側の門から入って、視界の上半分を覆い尽くすような満開の桜と、下半分を埋める人の群れの中をゆっくり進んだ。

 まったく塗りムラのない完璧に均一な青色の空の下に、ひしめき合うような桃色の花々が、生き生きと身いっぱいに咲いている様は溜め息をつくほど綺麗だ。

 五月初旬のまだ肌寒さを感じる風が吹くたび、薄い小さな花びらを攫うようにヒラヒラと運んでいく。

 公園中の至る所に、いろんな年代の組み合わせのグループがいるけれど、みんな一様に晴れ晴れとした表情で桜に見入っていた。

 あたしもここに来た本来の理由を忘れて、圧巻の景色につい見惚れてしまいそうになる。

 こんなクリアな視界で満開の桜を眺めるのは初めてで、素晴らしさに言葉が出てこない。

 毎年毎年、この時期になると日本中が浮かれて大騒ぎになる理由が、ようやくわかった気がした。