公園の入り口まで、まだ百メートルはありそうなこの場所からでも、青空の下にびっちりと並ぶ桜の樹々の群れが見てとれる。

 坂井君と並んで公園へ向かって歩きながら、あたしの保護メガネの奥の両目は、花の美しさにすっかり捕らわれてしまっていた。

「ちょうどいい時間帯に着いたな。三津谷さんのバイトの休憩時間、これからだ」

 隣の坂井君が上着のポケットからスマホを取り出して、時間を再確認する。

「三津谷さんって、桜祭り会場のバイトしてるんだったよね?」

「お化け屋敷のお化け役だってさ」

 天文部の部室で話し合った日の夜、坂井君は三津谷さんとうまく連絡を取ってくれたらしい。

 次の日の朝、ホームルームが始まる前に部室で待っていたあたしに、今度の日曜日に桜祭り会場で三津谷さんと会う約束を取りつけたと説明してくれた。

『お前、一緒にいけるよな?』と確認されて、一も二もなく頷いたけれど、後からお母さんにどう言い訳して外出しようかって、ひとり頭を抱えてしまった。

 ゴールデンウィーク真っ只中の桜祭り会場に行くなんて正直に言おうものなら、どんな反応が返ってくるか想像がつきすぎて怖い。

 あれこれ悩んだ挙句、班発表の資料作成と自分パートの練習をクラスメイトの家で行うという、わかるようなわからないような説明で煙に巻いた。