あたしは自分に言い聞かせるように、心の中で思っていることをちゃんと口に出した。

「自分の気持ちが坂井君に正しく伝わるまで、頑張りたい。だから部室の鍵、まだもう少しだけ借りててもいいかな? 責任もって預かるから」

 キョトンと目を丸くしてあたしを見ていた千恵美ちゃんの顔が、どんどん明るい笑顔になっていく。

 そして嬉しそうに勢いよく首をブンブン縦に振った。

「うんうんうん! もっちろん! あたしで力になれることがあるなら、なんでも協力するからね!」

「ありがとう千恵美ちゃん」

 ちょうどそこで担任の先生が教室に入ってきて、千恵美ちゃんが「また後でね」と自分の席に戻って行った。

 朝のホームルームが始まって、今日の連絡事項の説明をし始めた先生の声を聞きながら、頭の中では今後の対策についてあれこれと考える。

 お昼休みに、坂井君のクラスに行ってみよう。そしてもう一度、話を聞いてもらうように頼むんだ。

 あの様子じゃ避けられてしまうかもしれないけど、もしそうなっても諦めないで再チャレンジだ。

 放課後は時間がないから、また明日の朝にロッカーで待伏せしよう。

 そしてまた拒絶されたら、またお昼休みにクラスを訪ねよう。

 何度拒絶されても、怒られても怒鳴られても、何度でも何度でも何度でも食い下がろう。

 それ以上の具体的な案はひとつも浮かばないし、先行きの見通しなんてまったく立っていない。

 なのにあたしの気持ちは、昨日の激しい動揺が嘘のように落ち着いていて、そんな自分の変化が少しばかり不思議だった。