ホームルームに間に合うよう、他の生徒たちに混じって急ぎ足で廊下を歩いて階段をあがり、四階の教室に入る。

 あたしの席の近くでソワソワしていた千恵美ちゃんが、あたしと目が合うなり飛びついてきて、小声で話しかけてきた。

「翠ちゃん! 告白、どうだった!?」

 千恵美ちゃんに誤解されているのはわかっているけど、いまその誤解を丁寧に解くわけにもいかない。

 ドナーの件に関しては、坂井君や坂井君の家族のプライベートにも関わることだし、ペラペラ口外するわけにはいかないから。

 それにクラスで一番仲がいいとはいえ、親しくなってまだひと月程度の間柄で話すにしては、内容が重すぎる。

「あ、うん。えーっと……だめ、だった」

 切れ切れにそう答えるあたしを見つめる千恵美ちゃんの目から、キラキラしたお星さまのような輝きがスーッと消えていく。

「え? だめ、だったの?」

「う、うん。なんだかね、坂井君驚いちゃったみたいで。話の途中で逃げ出されたんだ」

「はあ!? なにそれ!」

 千恵美ちゃんの声に怒りの色が混じる。

「告白の途中で驚いて逃げ出すって、どんだけ乙女チックな性格してんのあいつ! 少女漫画のヒロインか!」

「ち、千恵美ちゃん、声が大きい」

「こっちは勇気を振り絞って伝えてんのに! 女の純情踏みにじって逃げるなんて、情けないヤツ!」

「でもあたし、まだ諦めてないから」