そんなことを考えているうちに時間はどんどん経過していって、登校してくる生徒の数が増えてくる。

 人影のまばらだった生徒玄関は濃紺の制服で溢れかえり、あちこちから聞こえる朝の挨拶や、明るい笑い声で賑わい始めた。

 ガヤガヤと行き交う人たちの邪魔にならないように、廊下の端っこに寄って、あたしは目を皿のようにして四組のロッカーを監視し続ける。

 気持ちは焦っているし、目立つ保護ネガネをつけているせいか、やたらと周囲の視線を浴びているような気がして落ち着かなくてしかたない。

 坂井君に早く来てほしい。でも、彼が来るのが怖い。

 鳴りやまない心臓をブレザーの上から手で押さえて息を整えていたら、急に横から声をかけられてビックリした。

「おはよう、翠ちゃん」

 いつの間にか千恵美ちゃんが、小首を傾げながら怪訝そうな表情で隣に立っている。

「あ、お、おはよう千恵美ちゃん」

「翠ちゃん、どうかしたの?」

「え? ど、どうかって、なにが?」

 答えながら、ドキッとした。

 まさか、あたしの中の変化を千恵美ちゃんに見抜かれてしまったんだろうか?

 目に見えてわかるくらい、坂井君のお兄さんの影響が外側にも表れているの?