あたしはわざと大声を出してスリッパの音をバタバタ響かせながら、元気いっぱいにリビングに駆け込む。

 そして両手で頬をギュッと押さえて、ムンクの『叫び』みたいな顔つきをしながら叫んだ。

「宿題あるのすっかり忘れてたよ! 千恵美ちゃんのプリント写させてもらうから、今日は早く学校に行く!」

「あら、まあまあ、翠ちゃんたら」

「こら翠、宿題は自分でやらなきゃだめだろう?」

「えへへ。ほい、反省!」

 反省猿の真似をして壁に手を当ててうな垂れてみせると、明るい笑い声が起こった。

 少し青ざめているお母さんも、何事もなかったようにニコニコと笑いながらあたしを見ている。

「お母さん、行こう。じゃあ行ってきまーす!」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

 お父さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも笑っている。

 あたしも満面の笑顔で手を振って、みんなに背を向けてお母さんと一緒に玄関へ向かった。

 外に出て、車の助手席に乗り込んで、口数の少ないお母さんに向かって必死に話しかけ続けた。