と言うか、まだちゃんと確かめてもいないのに、あたしはもう完全にドナーが坂井君のお兄さんだって確信してしまってる……。

 ノロノロと身を起こし、カーペットに足を下ろしてマットレスに腰掛けながら、大きな溜め息をついて考え込んでしまった。

 今日学校でまた坂井君に会ったら、あたしはどんな態度を取ればいいんだろう。なにを言うべきなんだろう。

 言える事実なんて、ひとつしかない。

『私が、あなたのお兄さんの角膜を奪った張本人です。ごめんなさい』

 そもそも事実を確かめるべきなのか、確かめないべきなのか。

 あたしがレシピエントだとわかったら、坂井君は苦しむことになるかもしれない。

 大切な家族を亡くしたばかりの坂井君が、レシピエントがすぐ側にいると知ったらどれほど動揺するだろう。

 双方のトラブルを避けるために、お互いの詳細は明かさないのが臓器移植の原則なんだから、やっぱり素知らぬふりを通した方がいいのかも。

 夢を見続けるのは気になるけれど、とりたてて実害があるわけでもないし、そのうちに見なくなるかもしれないし。

 はっきりさせない方がいいことだって世の中にはあるよね?

 うん、そうだよ。きっとこの件は、あえて答えを出さないまましていた方がいいことなんだ。

「翠ー。起きてるのー? 朝ご飯食べなさーい」

 ドアの向こうの階段下から、お母さんの声が聞こえる。

「起きてるー。いま行くー」

 考えがまとまって少しだけ心が軽くなったあたしは、大声で返事をしながらベッドからひょいと腰を上げて、パジャマ姿のまま部屋を出た。