いまの夢に出てきたあの少年は、どうやらあたしの親友らしい。

 ということは、坂井君のお兄さんの親友だった人……ということなんだろう。

 その親友さんがお兄さんの目の前で、大泣きしていた。

 場所は、どこかの中学か高校だと思う。

 親友さんは制服姿だったし、背景は教室だったし、周囲にはクラスメイトもいたし、きっと通っていた学校の中での出来事だ。

 それにしても、男の子がこんなに泣くのかと思うくらい派手に泣いていた。

 周囲の目も気にしないで、顔を真っ赤にして、ものすごく必死に首を横に振って、本気で何かを拒絶していた。

 きっとふたりは大ゲンカしたんだ。

 相変わらず夢の中では音がまったく聞こえないから、ケンカの原因は見当もつかないけれど、ものすごく深刻な様子だった。

 あれじゃ絶交までいってしまったかもしれない。それくらいあたしの……いや、お兄さんの心は衝撃を受けていた。

 そして、親友さんに伝えたい言葉を伝えることができないことに、とても苦しんでいた。

 坂井君のお兄さんの過去のシーンを手に取るように夢見るあたしは、その心模様にまでシンクロしている。

 強烈な悲しみや切なさを味わいながら目覚めるたびに、あたしは角膜だけじゃなく、記憶までお兄さんから奪ってしまったような罪悪感を覚えるんだ。