ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

 あたしは自分の頬がどんどん強張っていくのを感じていた。

 心臓は嫌な痛みを伴ったままドクンドクンと激しく鳴り続けていて、知らず知らずに呼吸が速くなっていく。

 坂井君のお兄さんが、事故で亡くなった。それも、あたしが角膜移植手術を受ける直前に。

『お前さ、目ぇ大事にしろな。その目、お前だけの目じゃないから』

 さっき彼が言っていた言葉が、信じられないくらいの重みをもって、改めてあたしの胸に強烈に突き刺さった。

 ……あぁ、もうこれは、認めるしかないだろう。

 きっと坂井君のお兄さんが、あたしのドナーなんだ……。

 やっぱりそうだったのかと納得すると同時に、底の知れない深い絶望感に襲われて、思わず保護メガネの上から片手で左目を覆ってしまった。

 ここまで決定的な事実を突きつけられても、まだ認めたくない気持ちもどこかにあって、大きな混乱を抱えた頭がクラクラしている。

 ……なんで? なんで? なんで?

 なんで、こんなことになってしまったの?

 なんでよりによってドナーの家族が、あたしと同じ高校に通っているの!?

 これから三年間、ずっと坂井君はあたしの近くにいて、それどころか同じクラスになる可能性だってある。

 もしもそうなってしまったら、どうしよう。とてもじゃないけど耐えられない。

 素知らぬ顔をしたまま、クラスの仲間として彼と顔を合わせて普通に学校生活を送れる自信なんか、カケラもない。

「翠ちゃん? どうしたの? 目が痛いの?」

 目を覆ったまま口を利かなくなってしまったあたしを心配して、千恵美ちゃんが顔を覗きこんでくる。